飛び続けることから始めよう

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昨日、日本航空の更正計画が東京地裁に認可されたとの発表がありました。

エアラインビジネスというのは、そもそも極めてボラティリティの高い、すなわち、安定的に利益を出すことが難しいビジネスです。
それは、テロや感染症、リーマンショックのような、一企業ではコントロールできない事件によって旅客数が減少し、売上が減ってしまうことも一因ですが、僕自身は、むしろ、エアラインビジネスというものが、そういったトップラインのリスクに対して柔軟に対応できるコスト構造を「極めて作りづらい」ビジネスモデルだからだと考えてます。
具体的には以下の3点です。

①稼働率ビジネス
まず、当たり前ですが、エアラインは、ホテルや鉄道などと同様、稼働率ビジネスです。
お客さんの増減に関わらず飛ばないといけないし、飛ぶとなれば機材費や燃料費、パイロットやCAの人件費など、ケータリングを除けばほとんどの費用が固定費で、客数に応じて減らすことができません。
固定費比率が高いので、当然ボラティリティは高くなります。

②コストの半分が燃油
エアラインの損益計算書を見ればわかるとおり、どのエアラインもコストのほぼ半分は燃油費です。
半分が燃油費であるということは、①で述べた固定費が大きいということだけではありません。
燃油は、商品相場の中でも(政治的要素を含め)極めて上下変動の大きい商品です。2002年頃は1バレル30米ドル程度のものが、2008年には200米ドルまで上昇し、金融危機後には1バレル40米ドル程度まで下がり、また上昇、というめまぐるしい動きをしています。
すなわち、コストの半分が、いきなり数倍に膨れ上がったりするリスクを抱えているということです。

また、①で述べたフライト連動の固定費の中でも、燃油はひときわ異なる性格を持っています。
それは、人や機材と違い、燃油は「距離」に連動するということです。
つまり、長距離を飛ばせば飛ばすほどリスクは高くなります。国際線、特に欧米向けの長距離国際線に路線をたくさん持つことは、それだけリスクが高いということです。

最新機材の導入や燃油価格のヘッジなど、燃油費に対する打ち手がないわけではないですが、上記のような性格から、そんな努力をも一気にふきとばすほどのリスクを同時に抱えているのです。

③インフラビジネス
上記①②に対して手を打てない最大の理由がこれ。
これはインフラ企業の宿命で、飛行機も、他の交通機関も、客が少ないから今回はやめます、というわけにはいかないということです。

以上のことから、僕は、エアラインというのは、ビジネスモデルの性格としてきわめて収益リスクが大きいビジネスだと思ってます。
当然ですが、上記の要素は決して日本航空に限った話ではなく、世界中でエアラインの経営危機はあまた起こっていて、アメリカではもはやビッグニュースにもならないような状況です。

僕は、今回の日本航空の再建は、親方日の丸体質、既得権益への甘え、高給と厚い福利厚生などといった、いわゆる経営体質の改善はもちろん必要だとは思いますが、そこだけにスポットライトをあててほしくない、それだけに終始してほしくないなと思ってます。
あたりまえの企業があたりまえにやっていることをやれるようにするのはもちろん大切ですが、僕は、日本航空は、それだけではなく、もっと崇高な使命のもとに集まる組織であってほしいと思ってます。

上述のとおり、エアラインというのは極めて舵取りが難しいビジネスです。
一方で、日本国内をつなぎ、日本と世界をつなぐインフラという、なくてはならないビジネスです。
ぜひ、「飛び続けること」を使命にしてもらいたい。
「飛び続ける」ためには、経営危機に陥ってはならないし、そのためには少しでもコストは下げないといけないし、もっと柔軟性のあるビジネスモデルを模索しないといけません。
日本航空が、人を減らす痛みを伴ってまで会社を変えようとしているのは、単に「利益を出す」ためではなく、「(利益を出すことで)飛び続ける」ため、日本と世界をつなぎつづけるためであり、そういう使命感を共有できる組織に生まれ変わることが、今回の再生の鍵なのだと思ってます。

言うまでもなく、それが日本航空の原点であり、アイデンティティでもあるからです。

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