エッセンのツォルフェライン炭鉱跡は、「世界で最も美しい炭鉱」と評され、ユネスコの世界文化遺産にも登録されている巨大な炭鉱遺産群である。
網の目のように張り巡らされている鉄骨は、一見無機質でありながら、整然とした機能美で全体の調和が保たれており、複雑でありながら複雑さを感じさせない。
炭鉱といえば、僕の生まれ育った街も炭鉱の街だった。
僕が生まれたときには既に操業停止していたが、小学生の頃、授業の一環で石炭資料館を訪れたことがある。
石炭を掘りにいった坑夫が、事故で炭坑から出られなくなり、光の当たらない炭坑の中で死んでゆく姿を描いた絵を見て、ものすごい衝撃を受けたのを今でも覚えている。
こんなにつらく、恐ろしい世界が、自分の生まれた街にあったのだという事実は、頭の中で過去の話として処理しきれるものではなかった。
ある日間違って炭坑に迷い込み、僕も出られなくなり、死んでしまうのではないかと怯え、両親に「炭坑に迷い込むことはないのか」と聞いたりもした。
ツォルフェラインも、「炭坑」という響きが持つ、暗く、もの悲しい雰囲気をまとっているように感じたのは、決して偶然ではあるまい。
きっとここも、重い歴史を抱えているのだ。
その高いデザイン性が買われてか、ツォルフェラインの一部の施設は、ドイツが誇る世界的なデザインアワードであるred dot design awardの美術館として活用されている。
過去の遺産である炭坑施設と未来的なデザインプロダクトの調和はこれまた見事としか言いようのない空間だったが、今回ばかりは過去の遺産に釘付けであった。
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