赤めだか

赤めだか赤めだか
(2008/04/11)
立川 談春

商品詳細を見る


いやーおもしろい。
文章を書くのが、読ませるのが本当にうまいなぁと思う。
僕は物書きではないけど、同じく言葉を扱う職業をしていて、心底すごいと思った。

立川談志については、数年前のM-1グランプリで辛辣なコメントをしていた印象しか持ってなかったが、愛情と厳しさを双生させたものの伝え方がすばらしい。
こういうふうに伝えればよかったのかと気づく。

「君の今持っている情熱は尊いもんなんだ。大人はよく考えろと云うだろうが自分の人生を決断する、それも十七才でだ。これは立派だ。断ることは簡単だが、俺もその想いを持って小さんに入門した。経験者だからわかるが、君に落語家をあきらめなさいと俺には云えんのだ」

「坊や、よく覚えとけ、世の中のもの全て人間が作ったもんだ。人間が作った世の中、人間にこわせないものはないんだ」

「談春!何してやがんだ。馬鹿野郎!どこの世界に弟弟子の靴揃える兄弟子がいるんだ。おい小僧、よく覚えておけよ!年が下でもお前が兄さんと呼ばれるのはな、お前が後輩に教えられることがあるからだ。形式だけの兄弟子、弟弟子なら、そんなものヤメチマエ!談秋に聞かれたことは、皆答えられるようにしとけ。そのための努力をしろ。靴なんか揃えてる暇はねェんだ。前座の間はな、どうやったら俺が喜ぶか、それだけ考えてろ。患うほど、気を遣え。お前は俺に惚れて落語家になったんだろう。本気で惚れてる相手なら死ぬ気で尽くせ。サシで付き合って相手を喜ばせられないような奴が何百人という客を満足させられるわけがねェだろう」

「よく芸は盗むものだと云うがあれは嘘だ。盗む方にもキャリアが必要なんだ。最初は俺が教えた通り覚えればいい。盗めるようになりゃ一人前だ。時間がかかるんだ。教える方に論理がないからそういういいかげんなことを云うんだ」

「たとえ前座だってお前はプロだ。観客に勉強させてもらうわけではない。あくまで与える側なんだ。そのくらいのプライドは持て。お辞儀が終わったら、しっかり正面を見据えろ。焦っていきなり話しだすことはない。堂々と見ろ。それができない奴を正面が切れないと云うんだ」

「いいか、俺はお前を否定しているわけではない。進歩は認めてやる。進歩しているからこそ、チェックするポイントが増えるんだ」

「己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱みを口であげつらって、自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬と云うんです。一緒になって同意してくれる仲間がいれば更に自分は安定する。だがそんなことで状況は何も変わらない。よく覚えとけ。現実は正解なんだ。時代が悪いの、世の中がおかしいと云ったところで仕方ない。現実は事実だ。そして現状を理解、分析してみろ。そこにはきっと、何故そうなったかという原因があるんだ。現状を認識して把握したら処理すりゃいいんだ。その行動を起こせない奴を俺の基準で馬鹿と云う」


人生訓に富んでいて、情景描写が鮮やかで、人生を明るく笑い飛ばして・・・落語の世界も、なかなかなかなか。
こういった伝記物の本は、立派な人の人生経験を少しでも体感することができて、学ぶことが多いし、刺激になります。


��以下、備忘録)
「一所懸命がんばりなさいなんて口が裂けても云わないのだろう。人生思い通りにはいかないが、どう転んだってそれほど悪いことばかりあるわけじゃないと教えてくれているんだと思った」

「今ならわかる。あの夜、談々も関西も精一杯落語家であり続けようとしてた。たとえ前座でも、それは虫ケラ同然の身分でも、俺達は落語家だった。落語家らしく談秋を送ってやろうと。それが談秋への優しさだと思っていたのだ」

「"一所懸命頑張ります"などと上っ面で云っている暇があるならまず働け、ダメだと思うなら辞めてもらって結構、辛抱なんかする必要はない。どの道人間生きていくためには、苦労、辛抱はつきものだが、我慢できる苦労とできない苦労がある。同じ苦労なら我慢できる苦労を選びなさいってことだ」

「僕を談志に紹介してくれたのが高田文夫先生で、そのせいもあって、談志は僕を落語に現代のギャグをたくさん入れてしゃべりたい奴と判断したようなんです。だったらそれに向かって必死に演るしかない。談志をしくじるのだけは嫌ですから」

「あのな、誰でも自分のフィールドに自信なんて持てない。でもそれは甘えなんだ。短所は簡単に直せない。短所には目をつぶっていいんだよ。長所を伸ばすことだけ考えろ」

0 コメント:

コメントを投稿