ベルナール・アルノー、語る

ブランド帝国LVMHを創った男 ベルナール・アルノー、語るブランド帝国LVMHを創った男 ベルナール・アルノー、語る
(2003/01/15)
ベルナール・アルノー

商品詳細を見る


長年経営コンサルティングをやってきた中で、「この業界の経営は難しいだろうな」と思った業界がある。
それが、ファッション業界。
もちろん在庫回転率を上げるとか、店舗オペレーションを改善するとか、やれることはあるのだろうけど、「流行」という、全く予測できないものが経営を大きく左右してしまうので、どうにも経営しづらそうに感じてしまう。

例えば、「今のナルミヤインターナショナルをどうすれば救うことができるのか」と聞かれれば、経営コンサルタント的に解を出すことはできる。
しかし、そこに「トムフォードを雇いましょう」という解はないだろう。
その一方で、この業界では一人のデザイナーがブランドを蘇らせた例が多々ある。
そういった意味で、ファッション・アパレル業界の経営は難しいように感じ、だからこそ、おもしろそうに思う。

しかし、本書を読んで、僕の考えは間違っていた、いや、浅慮であったと思い知らされた。
ベルナール・アルノーは、LVMHという、一見流行や景気に左右されやすそうなラグジュアリーブランド集団を、教科書に載るような経営のお手本というべき考え方で、見事に舵取りをしている。

まず、彼らの根底にあるのは、製品品質への徹底的な拘り。
「品質が良いもの」というのは、流行によって品質が悪くなるわけではないから、いつの時代でも「品質がよいもの」であり、そういった意味で、永続性のあるValue propositionを持っている。

「ルイ・ヴィトンの広告から読み取れるのは、伝統的な職人魂であり、本物であるというメッセージです。マーケティングに頼るしかない凡庸な商品とは何の共通点もない、歴史に支えられた技術です。」
「我々の目標は、高品質のブランドを追求する企業グループの構築です。破壊ではなく、構築。」


品質を担保したうえで、デザインは徹底的に「我」を貫き、消費者におもねらない(=競合がまねできない)。

「我々の目的はアイデアを極限まで発展させ、公表し、商品化することです。」
「彼(ジョン・ガリアーノ)が見せたいのは、必ずしも着るための衣服ではなく、極限まで推し進めたアイデアであり、女性や時代に対する新しい考えなのです。」


徹底的な商品への拘りの裏返しとして、マーケティングや流通といった"小手先のテクニック"での事業拡大を嫌う。
このへんはいかにも欧州的とも感じるけど、マーケティングや流通に頼ると商品がおざなりになりがちだという危機感もあるのだろう。

「マーケティングを気にするデザイナーは、いかに才能があっても、ブランドに寄与する作品は作れません。ブランドに革新をもたらすには、本物のクリエーターが必要なのです。」
「一定のマーケティングリサーチは実施しています。ただし、仕事上の誤りを避ける効用はありますが、成功のヒントを与えてくれたことはありません。成功は予測できませんし、直観に頼るしかありません。」
「ギャップやカルバン・クラインのようなブランドは一過性のものでしょう。その存在も成功もブランドの力というよりは、流通のテクニックに頼っているだけです。」


一方で、「デザイン・品質への拘り」は収益性軽視に陥りがちだが、この点は厳格に管理。

「LVMHは慈善事業ではありません。ブランドの永続性を保証するには経済的な成果が必要です。」
「クリスチャン・ラクロワはもともと製品の売上には無関心な男でしたが、その後はずいぶん変わりました。近頃では、商業的な成功こそ本当の成功であり、モード誌の評価はありがたいが、それだけでは十分でないこともわかってきました。」


と、ここまでもまあ立派だと思うけど、なにより一番感銘を受けたのは、事業ポートフォリオの考え方。
ファッションから宝飾・時計、アルコールをグループに持つことで、事業全体で業績のボラティリティを極小化している。
特にアルコールは業績の安定性向上にすごく寄与するようだ。
さらに、ファッションの中でも、流行に左右されないルイヴィトンというブランドを核に据えることで、業績を安定させ、他のブランドで挑戦できる余力を持たせている。

「ワイン・スピリッツ部門はグループの事業の基盤であり、経営の安定に大きく寄与しています。100年後もドンペリニョンは飲み継がれているでしょうが、モードのブランドについては、同じことは言えません」
「グッチでは無理ですよ。モードに偏りすぎているため、キャッシュフローも弱いし経営に波があります。」


彼自身もとは建設業界出身なこともあり、デザインや流行に走りがちなアパレル業界人と一線を画して経営を考えてきたこともよかったのだろう。
非常におもしろかったし、勉強になった。
こういう夢を売る業界は、前向きで、右脳的で、一度飛び込んでみたい業界の1つ。

「忘れてはならないのは、製品を売ることは、夢を見させることだということです。女性というものは、等身大の人間よりも崇高な理想像と自分を同一視するものなのです。」
「ルイ・ヴィトンの原点は、皮革製品や旅行用カバンです。旅こそ人生の芸術であり、ヴィトンと言えば旅に関するユニークな世界です。」
「最初から私の頭にあったのは、ブサックをつぶすことではなく、感動を共にできる仲間と企業グループを構築することでした。」
「ポーカーの賭けをするのとは違います。リスクはありましたが、容認できるものでした。」
「企業にとって戦略は不可欠なものです。私の好きなセネカの名言は『行き先を知らぬ者に追い風は吹かない』と教えています。」
「成功という観点から未来を考えたことはありません。私は会社経営の面白さに惹かれ、そのために行動しただけです。」
「芸術分野では、非合理性はなくてはならないものです。絵画でも音楽でもモードでも、創造と破壊は同時に進行します。企業の成功は、非合理性と合理性の両方をうまく働かせ、この非合理性を経済的効果に変える能力にかかっています。この水と火の二律背反から、心を奪われるような変化が生まれるのです。」


0 コメント:

コメントを投稿