解は必ずある

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「仕事や住まいを失った元派遣労働者らを支援した『年越し派遣村』実行委員会などは15日夜、東京都内で労働者派遣法の抜本改正を求める集会を開いた。元派遣労働者ら約400人が集まり、『安定した雇用や生活できる賃金を保障しろ』と訴えた。労組関係者からは、企業の責任を問う声も出た。」
��1月15日、時事通信)

気持ちはわかるのだが、このやり方ではあまりうまくいきそうにないな、と思う。
何かを変えたいと思うときは、同時に、変える対象となるもの(人だったり組織だったり制度だったり)が、何のために存在しているのかについてまで考えを及ばせなければならない。

そもそも「派遣」というのは、「柔軟性のある労働力の確保」という目的に対する1つの手段である。
事業環境に応じて必要なだけ人を増やしたり減らしたりできるほうが企業の安定性は高まるし、事業環境に応じて増やしたり減らしたりできるから採用もしやすい。
採用しやすいことが失業率を押し下げたり、(特に景気が上り調子の時は)採用される側も自分のライフスタイルに応じて働いたり辞めたりを柔軟にコントロールできたり、といったプラスの側面もあった。

ようは、「柔軟である」ことが大切なのである。

「柔軟さ」を至上目的としているならば、『安定した雇用や生活できる賃金を保障しろ』という主張を「派遣」という制度に求めるのは全くの矛盾である。
安定した雇用を保障しなければならないとなれば、企業は派遣労働者を雇用していた国内の工場を機械化するか、労働力の安い海外に生産拠点を移すだろう。
派遣制度は形骸化し、日本全体の雇用は減り、失業率が上がる。
安定雇用を派遣に求めれば求めるほど、社会全体の雇用は不安定になる。

また、安定雇用に関しても、「理由なき契約途中での解雇」と「契約満了での解雇」とは区別して議論されなければならない。
前者はたしかにけしからんが、後者も含めて「安定雇用を」というのなら、前述の通り、物事は簡単ではない。

次に、「生活できる賃金の保障」は、制度の問題だけでなく、派遣会社がどれだけマージンをとっているかということとも関係する。
職種にもよるだろうけど、雇用側からすれば、「けっこうな時給を払ってるけどなぁ…」と感じる企業も多いのではないだろうか。
とはいえ、じゃあ派遣会社が暴利をむさぼっているかといえば、おそらくそんなこともないだろう。
エンジニアの派遣など、専門性に特化した派遣会社は利益率も高いが、大手派遣会社の営業利益率はほんの数%である。
「賃金を上げてください」と言われても、それは派遣会社にとっても、(前述の通り)雇用側にとっても、はいわかりましたとできる話ではない。

こうした「派遣」の意義、根底の問題をふまえたうえで、もう一度冒頭の問題に目をむけてみる。

年越し派遣村のみなさんが、それでも「安定した雇用と生活できる賃金の保障」を至上目的にするのなら、やりかたはいろいろあるだろうが、例えば、柔軟な労働力を供給する会社、今でいう派遣会社が、単に斡旋するビジネスモデルから、彼等が雇用し、派遣するモデルに変えるよう働きかけてみてはどうか。
つまり、「派遣社員」という役職の正社員を雇用する会社が存在する社会をつくるのだ。
今のルールの中でこれをやると派遣会社は破綻するであろうから、例えば派遣会社の法人税免除、または補助金の交付などを法律化してくれ、といった提案が必要になる。
介護サービスなどと同様の考え方で、派遣を守るのである。

いずれにしろ、こうしたことが全て検討されたうえで、冒頭のセリフに至っているのだろうか。
そうでなければ、派遣という制度の意義ををいま一度考え直してほしいし、全て検討済みだというのなら、マスコミはその議論と事の本質を丁寧に報道してほしい。
単に窮状を紹介して同情を買おうとするような浅慮な報道は、事の本質を見失い、結果、派遣労働者をますます追い込むだけである。

この問題が、日本全体の社会不安をなくすよう、正しく解決されることを祈る。

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